乗代雄介さんの『旅する練習』は、サッカー選手を夢見る少女とその叔父が、千葉県我孫子から茨城県鹿嶋までの歩き旅を通して成長していく姿を描いた小説です。旅の道中で出会う人々との交流や、道中に広がる風景が細かく描写され、読者も一緒に旅をしているような気分にさせられます。そして、読後にじわじわと効いてくる深い余韻が特徴です。この物語を通じて、人生の旅路と成長について考えさせられること間違いありません。
『旅する練習』概要
『旅する練習』
タイトル:旅する練習
著者:乗代雄介
出版社:講談社
読んだ本:群像 2020年12月号
あらすじ
中学入学を前にしたサッカー少女と、小説家の叔父。
引用元:Amazon
2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、
ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。
ロード・ノベルの傑作! 第164回芥川賞候補作。
『旅する練習』 感想
登場人物の魅力
『旅する練習』の読者が一様に口にするのは、登場人物たちの魅力です。特にサッカー選手を夢見る少女と彼女の叔父のキャラクターは、多くの読者の心に深く響いています。ある読者は「読み終えた後、心に空洞ができてしまった。こんな気持ちになるなら最初から読まなければよかった」と感じたほどです。これは、登場人物たちがまるで実在するかのように描かれていることが要因でしょう。彼らの成長や人間らしい弱さ、悩みが物語を進めるにつれてより鮮明になり、読者もまた彼らとともに心の旅路を歩んでいるように感じます。
他の読者も、「ジーコを尊敬する若き女性との出会いを通して、登場人物たちが成長していく様子が印象的だった」と述べています。短期間の旅の中で変化していく彼らの姿に、心打たれる瞬間がいくつもあります。
美しい情景描写とリアリティ
もう一つの大きな見どころは、乗代雄介さんによる情景描写の美しさです。『旅する練習』は、千葉から茨城に至る歩き旅が舞台となっていますが、その道中で描かれる風景や自然は、まるでその場にいるかのような臨場感があります。ある読者は「情景描写が美しく、最後まで読んだ後にじわじわとその美しさが効いてきた」と評価しており、自然や植物、動物に対する細やかな観察が作品の魅力を増しています。
私もまた、植物や動物の描写に引き込まれました。特に普段あまり自然に興味がない私にとっては、詳細な描写が逆に読書を一歩一歩進めているような気分にさせられました。この「旅」の感覚は、文章を読む過程そのものに重ね合わせることができ、読者にとって新しい体験となるでしょう。
予想外の衝撃
この物語がただの旅の記録に留まらない理由の一つが結末です。ある読者は「思ってもみなかった結末が後からじわじわと効いてくる」と評し、最終的に心に残る驚きを感じたと述べています。また、「物語の最後のページで評価が変わるかもしれない」との感想もあるように、この結末が物語全体に新たな視点を与えるのです。
私も、物語の途中で「これってどういう意味なんだろう?」と感じる箇所がいくつもありましたが、最後まで読むとそれらが一つ一つ解き明かされ、全体の意味が分かるようになっていきました。純文学としては珍しいどんでん返しのような展開が、最後まで飽きさせない要素となっています。結末を知った後に、もう一度最初から読み返したいと思わせる力がある作品です。
おわりに
『旅する練習』は、ただの旅の記録ではなく、登場人物たちの成長や人生そのものを描いた作品です。心に響くキャラクターたち、美しい自然描写、そして予想外の結末が、読者を物語の世界に引き込み、読後には深い余韻を残します。最後のページまで読んだ時、あなたもまた人生の新たな側面を発見できることでしょう。
コメント