桐野夏生の『カンモク』は、一見普通の人間関係のように見えながら、実は深い闇を抱えた物語です。タイトルからは内容が全く想像できず、読んだ後もその意味が腑に落ちないという不思議な感覚を持ちました。主人公の山田未知花と菅原さんとの複雑な関係性や、彼女の過去が織り成すストーリーは、現代社会における人間関係の難しさを浮き彫りにしています。
『カンモク』概要
『カンモク』
(『新潮』2023年1月号 所収)
あらすじ
桐野夏生の『カンモク』は、主人公・山田未知花が男性・菅原と同居することから始まる物語です。彼女は過去の離婚から男性に対して興味を持てず、コロナ禍で仕事を失った末、菅原との生活を選びます。そこで未知花が発見するものは……。
『カンモク』ポイント・感想
タイトルの意味と物語の始まり
『カンモク』というタイトルは、「完全黙秘」の略だと知り、その意味深さに驚かされました。主人公の未知花は、菅原さんという男性と同居していますが、彼との出会いは犬カフェで推し犬がかぶったことから始まります。恋愛感情は全くなく、未知花には離婚歴があり、男性に対して興味を持てない状況です。この設定からして、物語には複雑な人間関係が織り込まれていることがわかります。
複雑な人間関係と信頼の難しさ
未知花がコロナ禍で仕事を失い、行くあてもなくなったところで菅原さんと出会い、同居することになります。この状況から始まる二人の生活は、一見穏やかですが、次第に人間関係には必ずしも信頼が伴わないことを思い知らされます。特に「最初はよくても、人間は変質するのだから信用できない」という言葉には深い共感を覚えました。
年齢設定の驚きと不穏さ
物語の後半で明かされる菅原さんの年齢には驚きました。彼が未知花よりもかなり年下であることに、「ファッ!?」となり、自分の中でイメージしていたキャラクター像が崩れました。この年齢設定や、物語全体に漂う不穏さは、読者に強い印象を残します。桐野夏生さんならではの描写力を感じる瞬間です。
おわりに
『カンモク』は、人間関係や信頼について考えさせられる作品です。複雑なキャラクターたちの心情や過去が絡み合いながら進むストーリーは、一度読んだだけでは理解しきれない部分も多いですが、それこそがこの小説の魅力です。桐野夏生さんの作品に触れることで、新たな視点を得られるかもしれません。ぜひ手に取って、その深い世界観を楽しんでみてください。
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